「塞栓(そせん)」と「血栓(けっせん)」、この二つの言葉は、私たちの体の中で起こる危険な状態を指す際に使われますが、その意味合いには重要な違いがあります。この違いを正しく理解することは、病気の予防や早期発見につながるため、非常に大切です。本記事では、この「塞栓 血栓 違い」について、分かりやすく解説していきます。
塞栓と血栓の基本的な違い
まず、一番基本的な違いから説明しましょう。血栓とは、血管の中で血液が固まってできた「血の塊」のことです。これが血管を詰まらせてしまうと、血流が悪くなり、様々な問題を引き起こします。一方、塞栓とは、血栓そのものだけでなく、血管の外から入ってきた異物(例えば、空気の塊や脂肪の粒など)が血管を詰まらせる状態全般を指します。つまり、血栓が原因で起こる詰まりも「塞栓症」という病気の一部であり、 塞栓は血栓よりも広い意味を持つ言葉 なのです。
具体的に、血栓ができる原因としては、以下のようなものが挙げられます。
- 長時間同じ姿勢でいること(エコノミークラス症候群など)
- 怪我や手術
- 心臓の病気(心房細動など)
- 高血圧や糖尿病などの生活習慣病
- 喫煙
一方、塞栓の原因となるものには、血栓の他にも以下のようなものがあります。
- 空気:手術中や点滴中に血管内に空気が入ってしまう
- 脂肪:骨折などで脂肪組織が血管内に入る
- 羊水:出産時に羊水が母体の血管内に入る(極めて稀)
このように、血栓は体の中で自然にできる「塊」であるのに対し、塞栓は血栓以外の「詰まるもの」も含む、より広範な概念と言えます。
血栓ができるメカニズム
血栓は、私たちの体が傷を負った際に、出血を止めるために自然に起こる反応が、異常な形で進んでしまうことで形成されます。通常、血管が傷つくと、血小板が集まってきて傷口をふさぎ、さらにフィブリンというタンパク質が網目状になって血小板などを絡め取り、しっかりと固まります。これが「止血」という働きです。
しかし、この血栓が本来できるべきでない場所、つまり血管内で、しかも不要な時にできてしまうことがあります。これは、血管の内側の壁が傷ついたり、血流が滞ったり、血液の成分が異常になったりすることが原因で起こります。例えば、長時間座っていると、足の静脈の血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。また、心房細動という不整脈があると、心臓の中に血栓ができ、それが剥がれて脳に飛んでしまうと脳梗塞の原因となります。
血栓ができる過程には、いくつかの段階があります。
- 血小板の凝集 :血管が傷つくと、血小板が活性化して集まってきます。
- フィブリンの生成 :血液中の凝固因子が働き、フィブリンが作られます。
- 血餅(けっぺい)の形成 :血小板とフィブリンが絡み合い、血栓が形成されます。
この血栓が大きくなったり、血管の壁から剥がれたりすると、血流に乗って他の場所に移動し、血管を詰まらせる「塞栓子」となることがあります。
塞栓症の種類と原因
塞栓症は、詰まる原因によっていくつかの種類に分けられます。最も多いのは「血栓塞栓症」で、これは先ほど説明した血栓が血管を詰まらせる状態です。血栓塞栓症は、さらにどこで血栓ができるか、どこに飛んでいくかによって、以下のような病気に分類されます。
- 肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群) :足の静脈にできた血栓が肺の血管に詰まる病気です。
- 脳梗塞 :脳の血管に血栓が詰まる病気です。
- 心筋梗塞 :心臓の血管に血栓が詰まる病気です。
血栓以外の塞栓子によるものとしては、以下のようなものがあります。
- 空気塞栓症 :点滴や手術中に空気が血管内に入り込み、詰まる状態です。
- 脂肪塞栓症 :骨折などの際に、骨髄から脂肪が血液中に入り込み、血管を詰まらせる状態です。
これらの塞栓症は、突然発症することが多く、命に関わる危険な病気です。そのため、日頃から注意が必要です。
塞栓と血栓の関連性
塞栓と血栓は、密接に関連しています。というのも、塞栓の原因の多くが血栓だからです。血栓は血管の中で作られ、それが剥がれて血流に乗って移動し、細くなった血管に引っかかって詰まってしまうことがあります。この「剥がれて移動してきた血栓」のことを「塞栓子(そせんし)」と呼びます。
つまり、血栓は「元」であり、それが移動して血管を詰まらせた状態を「塞栓」と捉えることもできます。以下に、その関連性を表にまとめました。
| 言葉 | 意味 | 関連性 |
|---|---|---|
| 血栓 | 血管内でできた血の塊 | 塞栓の原因となることが多い |
| 塞栓 | 血管が詰まること全般(血栓以外も含む) | 血栓が原因で起こる場合がある(血栓塞栓症) |
この図からもわかるように、血栓ができやすい体質や状況がある場合、塞栓症のリスクも高まります。健康な血管を保つことが、血栓の形成を防ぎ、ひいては塞栓症の予防につながるのです。
塞栓・血栓が引き起こす症状
塞栓や血栓によって血管が詰まると、その先の組織や臓器への血流が途絶え、酸素や栄養が届かなくなります。これにより、様々な症状が現れます。症状は、詰まった場所によって大きく異なります。
- 脳の場合 :突然の激しい頭痛、ろれつが回らない、手足のしびれや麻痺、片方の目が見えにくくなる(脳梗塞)。
- 肺の場合 :突然の息切れ、胸の痛み、咳(血栓性肺塞栓症)。
- 心臓の場合 :胸の痛み、締め付けられるような痛み、冷や汗、吐き気(心筋梗塞)。
- 足の場合 :足の痛み、腫れ、赤み(深部静脈血栓症)。
これらの症状は、突然現れることが多く、放置すると命に関わる場合もあります。もし、これらの症状に気づいたら、すぐに医療機関を受診することが重要です。
塞栓・血栓の予防法
塞栓や血栓の予防には、日頃の生活習慣が大きく関わってきます。主な予防法は以下の通りです。
- 適度な運動 :血流を良くし、血栓ができにくくします。特に、長時間の同じ姿勢を避けることが大切です。
- 水分補給 :血液がドロドロになるのを防ぎます。
- 禁煙 :喫煙は血管を傷つけ、血栓ができやすくなります。
- バランスの取れた食事 :塩分や脂肪分の摂りすぎに注意しましょう。
- 規則正しい生活 :十分な睡眠をとり、ストレスを溜めないことも大切です。
また、基礎疾患(心臓病、糖尿病、高血圧など)がある方は、医師の指示に従い、しっかりと治療を続けることが重要です。定期的な健康診断で、体の状態を把握することも予防につながります。
まとめ:塞栓 血栓 違いを理解して健康を守ろう
「塞栓 血栓 違い」について、ご理解いただけたでしょうか。血栓は血管内でできる血の塊であり、塞栓はその血栓が移動して血管を詰まらせること、または血栓以外の異物によって血管が詰まること全般を指します。どちらも私たちの体に深刻な影響を与える可能性があるため、その違いを理解し、日頃から予防に努めることが大切です。健康な毎日を送るために、これらの知識を役立ててください。