SPD(サージ保護デバイス)には、Ⅰ型とⅡ型という2つの主要なタイプが存在します。このSPD Ⅰ型とⅡ型の違いを理解することは、電気設備の安全性を確保する上で非常に重要です。それぞれの特性や用途を把握することで、より適切な保護策を講じることができるようになります。
SPD Ⅰ型とⅡ型の根本的な違い
SPD Ⅰ型とⅡ型の最も大きな違いは、その設置場所と保護能力にあります。一般的に、SPD Ⅰ型は建物の引込口など、雷サージが直接侵入してくる可能性のある場所に設置され、大量のエネルギーを吸収する役割を担います。一方、SPD Ⅱ型は、各階の分電盤など、より末端に近い場所に設置され、Ⅰ型で吸収しきれなかった残りのサージをさらに抑制する役割を持ちます。 この二段階での保護が、電気設備を雷サージから守るための鍵となります。
SPD Ⅰ型は、その高いエネルギー吸収能力を活かすために、以下のような特徴を持っています。
- 大きな雷サージに対応できる
- 通常、金属筐体内に収められている
- 比較的大きなサイズであることが多い
対照的に、SPD Ⅱ型は、より微細なサージの抑制に特化しており、その性能は表のようにまとめられます。
| 特徴 | SPD Ⅰ型 | SPD Ⅱ型 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 大容量サージの吸収・放流 | 残存サージの抑制・低減 |
| 設置場所 | 引込口、キュービクル | 分電盤、機器直前 |
設置場所による使い分け
SPD Ⅰ型とⅡ型の使い分けは、設置場所の特性に大きく依存します。例えば、落雷のリスクが非常に高い屋外施設や、大規模な建造物の主配電盤には、まずSPD Ⅰ型が設置されます。これは、建物に到達する雷サージの初期段階で、その大部分を大地へ逃がすためです。この初期保護が不十分だと、後段の保護機器に過大な負荷がかかってしまう可能性があります。
一方、SPD Ⅱ型は、SPD Ⅰ型を通過してきた、あるいは誘導雷によって発生した比較的小さなサージから、個々の電気機器を守るために使用されます。家庭用の分電盤に設置されるSPDの多くは、このⅡ型に分類されます。これにより、家電製品やPCなどの精密機器が、突発的な電圧変動から保護されるのです。
具体的な設置場所の例をいくつか挙げます。
- SPD Ⅰ型:
- 電力会社の引込点
- 工場やビルの主配電盤
- 屋外の変電設備
- SPD Ⅱ型:
- 建物の各階の分電盤
- OA機器用の電源タップ
- サーバーラック内のPDU
保護レベルの違い
SPD Ⅰ型とⅡ型の保護レベルには、明確な違いがあります。SPD Ⅰ型は、前述の通り、非常に高いエネルギーを持つ雷サージを直接受け止めることを想定しているため、その放流能力は非常に大きいです。これは、IEEEやIECといった国際規格によって厳格に定められています。
これに対して、SPD Ⅱ型は、Ⅰ型である程度抑制されたサージを受け、さらに低いレベルまで電圧を低下させます。この「残存電圧」の低さが、Ⅱ型の重要な性能指標となります。機器が耐えられる電圧レベルは限られているため、この残存電圧が低いほど、機器は安全に保護されることになります。
保護レベルについて、さらに詳しく見ていきましょう。
- SPD Ⅰ型:
- 最大放流容量が大きい(例: 10kA、20kAなど)
- 機器への保護レベル(UP)は、Ⅱ型に比べて高めになる傾向がある
- SPD Ⅱ型:
- 残存電圧が低い(例: 500V、1kV以下など)
- 機器への保護レベル(UP)をより低く抑えることができる
構造と部品の違い
SPD Ⅰ型とⅡ型では、内部の構造や使用される部品にも違いが見られます。SPD Ⅰ型では、大量のサージ電流を安全に大地へ逃がすために、大容量の避雷素子(バリスタやガス放電管など)が使用されることが多いです。これらの素子は、瞬間的に非常に大きな電流を流すことができます。
一方、SPD Ⅱ型は、より精密なサージ抑制を行うために、低遅延で応答性の高い部品が採用される傾向があります。また、機器との接続のしやすさや、省スペース化を考慮した設計がなされている場合もあります。
以下に、構造に関する比較をまとめました。
| 項目 | SPD Ⅰ型 | SPD Ⅱ型 |
|---|---|---|
| 主な避雷素子 | 大容量バリスタ、ガス放電管 | バリスタ、TVSダイオードなど |
| 応答速度 | 比較的速い | 非常に速い |
| サイズ感 | 比較的大きい | 比較的コンパクト |
寿命とメンテナンス
SPD Ⅰ型とⅡ型では、寿命やメンテナンスの頻度にも違いが出てきます。SPDは、雷サージを受けるたびに劣化していく性質があります。特にSPD Ⅰ型は、より大きなサージを受け止めるため、その劣化も早く進む可能性があります。
そのため、SPD Ⅰ型は定期的な点検が重要になります。異常を検知するためのインジケーターが付いている製品も多く、それらを注意深く確認する必要があります。SPD Ⅱ型も劣化しますが、通常はⅠ型よりも保護されるサージのレベルが低いため、比較的寿命は長い傾向にあります。
メンテナンスについて、重要な点は以下の通りです。
- SPD Ⅰ型:
- 定期的な目視点検が不可欠
- インジケーターの確認
- 劣化が進んだ場合は早期交換
- SPD Ⅱ型:
- Ⅰ型に比べるとメンテナンス頻度は低い傾向
- それでも長期使用には定期点検が推奨される
コストパフォーマンス
SPD Ⅰ型とⅡ型のコストパフォーマンスも、検討すべき重要な要素です。一般的に、SPD Ⅰ型は、その高い保護能力と大容量の部品を使用しているため、SPD Ⅱ型に比べて高価になる傾向があります。
しかし、これはあくまで初期投資の話です。電気設備全体の保護という観点から見れば、初期段階で適切なSPD Ⅰ型を設置し、その後にSPD Ⅱ型で保護を強化することが、結果的に機器の破損による損害を最小限に抑え、長期的なコスト削減につながるのです。
コストに関する考慮事項は以下の通りです。
- 初期コスト:
- SPD Ⅰ型は高価
- SPD Ⅱ型は比較的安価
- 長期的なコスト:
- 適切な組み合わせによる機器保護で、修理・交換費用を削減
- 信頼性の高い製品選びが重要
まとめ:安全のための賢い選択
SPD Ⅰ型とⅡ型の違いを理解することで、それぞれの役割と重要性が明確になります。建物の安全な運用のためには、これらのSPDを適切に組み合わせ、段階的な保護を行うことが不可欠です。どちらか一方だけでは、完全な雷サージ対策とは言えません。専門家のアドバイスも参考にしながら、ご自身の環境に最適なSPDを選び、大切な電気設備を守りましょう。