「卵巣嚢胞」と「卵巣嚢腫」、この二つの言葉、なんとなく似ているけれど、実際にはどのような違いがあるのでしょうか？ 卵巣にできる「袋状のもの」を指す言葉として、どちらも使われることがありますが、医療的な文脈では微妙なニュアンスの違いがあります。今回は、この 卵巣嚢胞と卵巣嚢腫の違い を分かりやすく解説します。
「嚢胞」と「嚢腫」の使い分け
まずは、言葉そのものの意味から見ていきましょう。「嚢胞（のうほう）」というのは、体の中にできる袋状のもので、中には液体や空気、半固形物などが溜まっています。一方、「嚢腫（のうしゅ）」も同様に袋状のものですが、こちらは「腫瘍」という言葉が含まれていることから、より病的な、つまり「腫れ上がったもの」というニュアンスが強くなります。
しかし、こと卵巣に関していえば、この二つの言葉はしばしば混同されたり、あるいは同じ意味で使われたりすることがあります。一般的には、卵巣にできる袋状のものを総称して「卵巣嚢胞」と呼ぶことが多いですが、その中には良性のものから悪性のものまで、様々な種類が含まれます。
卵巣嚢胞と卵巣嚢腫の違い を理解する上で大切なのは、その発生原因や性質、そして悪性かどうかという点です。一般的に「卵巣嚢腫」という言葉が使われる場合、それは単なる袋状のものというよりは、何らかの病的な原因によって発生した、より組織学的な特徴を持った腫瘍性の変化を指す傾向があります。しかし、これはあくまで一般的な傾向であり、医師が診断を下す際には、画像診断や組織検査の結果に基づいて、より詳細な分類を行います。
- 卵巣嚢胞： 卵巣にできる袋状のものの総称。
- 卵巣嚢腫： 病的な原因で発生した腫瘍性の袋状のもの。
卵巣嚢胞の種類と性質
卵巣嚢胞は、その発生原因によっていくつかの種類に分けられます。最も一般的なのが、「機能性嚢胞」と呼ばれるものです。これは、排卵の過程でできる卵胞が、うまく排卵せずにそのまま大きくなってしまったものや、排卵後にできるはずの黄体が、出血して溜まってしまったものです。これらの機能性嚢胞は、多くの場合、数ヶ月で自然に消えてしまうため、特別な治療が必要ないこともあります。
一方で、機能性嚢胞ではない「腫瘍性嚢胞」もあります。これらは、卵巣の細胞が異常に増殖してできたもので、良性のものから悪性のものまで様々です。例えば、チョコレート嚢胞（子宮内膜症性嚢胞）は、子宮内膜症が卵巣に発生した場合にできるもので、生理のたびに血液が溜まって黒っぽい液体で満たされるのが特徴です。また、皮様嚢腫（ダーモイドシスト）は、卵巣の中に毛や歯、脂肪などが混じってできる、先天性の腫瘍です。
| 種類 | 特徴 | 自然消滅の可能性 |
|---|---|---|
| 機能性嚢胞 | 排卵や黄体に関連するもの | 高い |
| 腫瘍性嚢胞 | 細胞の異常増殖によるもの | 低い |
このように、卵巣嚢胞と一口に言っても、その性質は多岐にわたります。そのため、 卵巣嚢胞と卵巣嚢腫の違い を厳密に区別するというよりも、どのような原因で、どのような性質の袋状のものができているのかを正しく理解することが重要です。
診断と検査方法
卵巣に袋状のものができた場合、医師は様々な検査を行い、その診断を確定します。まず、最も基本的な検査は「経腟超音波検査」です。これは、膣から超音波のプローブを挿入し、卵巣の大きさや形、内部の状態などを詳しく観察する検査です。超音波検査では、嚢胞の大きさ、壁の厚さ、内部の液体が均一か、あるいは塊（卵巣腫瘍の可能性）があるかなどを確認することができます。
超音波検査で異常が見られた場合、さらに詳しい検査が行われることもあります。例えば、「MRI検査」は、より詳細な画像を得ることができ、嚢胞の性質や周囲の臓器との関係を把握するのに役立ちます。「CT検査」も、腫瘍の広がりや転移の有無などを調べるのに用いられることがあります。また、血液検査で腫瘍マーカーを測定することもあります。腫瘍マーカーは、がん細胞が作る物質を検出するもので、がんの可能性を示唆する手がかりとなります。
- 問診・内診
- 経腟超音波検査
- MRI検査、CT検査（必要に応じて）
- 腫瘍マーカー検査（必要に応じて）
これらの検査結果を総合的に判断し、 卵巣嚢胞と卵巣嚢腫の違い 、そしてその良性・悪性の可能性を診断していきます。
治療法について
卵巣嚢胞や卵巣嚢腫の治療法は、その種類、大きさ、症状、そして患者さんの年齢などによって異なります。機能性嚢胞で、症状がなく、小さい場合は、経過観察となることがほとんどです。数ヶ月で自然に消失することが期待できるため、定期的な超音波検査で様子を見ます。
しかし、嚢胞が大きくなり、腹痛や違和感などの症状がある場合、あるいは機能性嚢胞ではなく、腫瘍性嚢胞である可能性が高い場合は、治療が必要になることがあります。治療法としては、薬物療法と手術療法があります。薬物療法としては、低用量ピルなどが用いられることもありますが、これは主に生理痛の緩和や、新たな嚢胞の形成を抑える目的で行われます。
手術療法は、一般的に開腹手術ではなく、腹腔鏡下手術（内視鏡手術）で行われることが多いです。腹腔鏡下手術は、お腹に小さな穴を開けてカメラや手術器具を挿入して行うため、傷が小さく、回復も早いというメリットがあります。手術では、嚢胞だけを取り除く「嚢胞摘出術」や、嚢胞とともに卵巣の一部または全体を切除する「卵巣摘出術」が行われます。悪性の可能性が高い場合は、子宮やリンパ節への転移がないかなども考慮した、より広範囲の手術が必要になることもあります。
- 経過観察： 小さく症状のない機能性嚢胞の場合。
- 薬物療法： 症状緩和や再発予防目的。
- 手術療法： 嚢胞摘出術、卵巣摘出術など。
卵巣嚢胞と卵巣嚢腫の違い によって、治療方針も変わってくるため、自己判断せずに医師の指示に従うことが大切です。
症状の有無と注意点
卵巣嚢胞や卵巣嚢腫は、初期の段階ではほとんど症状がないことが多いです。そのため、定期的な健康診断や婦人科検診で偶然発見されるケースが少なくありません。しかし、嚢胞が大きくなったり、茎捻転（茎がねじれて血流が滞る）を起こしたりすると、急激な腹痛や吐き気、嘔吐などの症状が現れることがあります。このような急な痛みがある場合は、すぐに医療機関を受診する必要があります。
また、嚢胞が大きくなると、お腹が張る感じがしたり、頻尿になったりすることもあります。これらの症状は、他の病気でも起こりうるため、自己判断せずに医師に相談することが重要です。特に、閉経後の女性にできた卵巣嚢胞や嚢腫は、悪性である可能性が相対的に高まるため、注意が必要です。
- 無症状の場合が多い
- 大きくなると腹部膨満感、頻尿
- 茎捻転を起こすと急激な腹痛、吐き気、嘔吐
- 閉経後の嚢胞は注意が必要
卵巣嚢胞と卵巣嚢腫の違い を理解し、気になる症状がある場合は、早めに専門医に相談しましょう。
良性と悪性の見分け方
卵巣にできた袋状のもの（嚢胞や嚢腫）には、良性のものと悪性のもの（がん）があります。この見分け方は、非常に重要ですが、最終的な診断は病理検査（摘出した組織を顕微鏡で調べる検査）によって確定されます。しかし、検査の段階である程度の可能性を推測することは可能です。
超音波検査では、嚢胞の内部に「壁」があるか、あるいは「乳頭状の突出物」があるか、液体が「均一」か「不均一」かなどを観察します。一般的に、壁が厚く、不規則な内部構造や、乳頭状の突出物がある場合は、悪性の可能性が疑われます。また、急激に大きくなる場合も注意が必要です。
MRI検査やCT検査でも、腫瘍の形状や周囲への浸潤の有無などが詳しくわかります。さらに、腫瘍マーカーの値も参考になります。卵巣がんはCA125という腫瘍マーカーが上昇することが多いですが、良性の病気でも上昇することがあるため、これだけで診断はできません。あくまで、他の検査結果と合わせて総合的に判断されます。
| 超音波検査での所見 | 良性の可能性 | 悪性の可能性 |
|---|---|---|
| 均一な液体、滑らかな壁 | 高い | 低い |
| 不均一な内部、壁の肥厚、乳頭状突出 | 低い | 高い |
卵巣嚢胞と卵巣嚢腫の違い 、そして良性か悪性かの判断は、専門的な知識と経験を持つ医師によって行われます。
Q&A：よくある疑問にお答えします
Q1: 卵巣嚢胞は将来、がんになることがありますか？
A1: 機能性嚢胞は、がんになることはありません。しかし、腫瘍性嚢胞の中には、悪性（がん）のものや、将来悪性化する可能性のあるものもあります。そのため、定期的な検査で状態を把握することが大切です。
Q2: 妊娠中に卵巣嚢胞が見つかったらどうなりますか？
A2: 妊娠中の卵巣嚢胞は、機能性嚢胞であれば出産後に自然に消えることが多いです。しかし、大きかったり、症状があったりする場合は、妊娠経過や胎児への影響を考慮して、慎重な経過観察や、場合によっては手術が検討されます。医師とよく相談することが重要です。
Q3: 卵巣嚢胞があると、生理不順になりますか？
A3: 大きな卵巣嚢胞があると、卵巣の機能が圧迫されて生理周期が乱れることがあります。また、ホルモンバランスの乱れが原因でできる嚢胞もありますので、生理不順がある場合は婦人科での相談をおすすめします。
Q4: 卵巣嚢腫は、自覚症状がないことが多いのですか？
A4: はい、多くの場合、初期は自覚症状がほとんどありません。そのため、検診などで発見されることが一般的です。しかし、嚢胞が大きくなったり、茎捻転などの合併症を起こしたりすると、急激な痛みなどの症状が現れることがあります。
Q5: 卵巣嚢胞と卵巣嚢腫、どちらの言葉を使うべきですか？
A5: 一般的には、卵巣にできた袋状のものを総称して「卵巣嚢胞」と呼ぶことが多いです。より病的な状態を指す場合に「卵巣嚢腫」という言葉が使われることもありますが、医療現場では、検査結果に基づいてより詳細な病名がつけられます。患者さんとしては、医師の説明をよく聞き、ご自身の状態を正しく理解することが大切です。
卵巣嚢胞と卵巣嚢腫の違い について、これらのQ&Aで疑問が解消されれば幸いです。
まとめ
「卵巣嚢胞」と「卵巣嚢腫」という言葉は、似ているようで、その意味合いや使われ方に微妙な違いがあります。しかし、最も大切なのは、これらの言葉に惑わされることなく、ご自身の卵巣にどのような状態ができているのかを、医師の説明を通して正しく理解することです。機能性嚢胞のように、自然に治るものもあれば、腫瘍性嚢胞のように、注意深い経過観察や治療が必要なものもあります。気になる症状がある場合や、検診で指摘された場合は、一人で悩まず、専門医に相談するようにしましょう。